9月16日の昼、私はインパクトドライバーとエアブロア、そしてラップトップとその他小道具をカバンに詰め、幕張まで車を走らせていました。
明らかにいらないはずの電動工具を引っさげていたのは、誰かに頼まれたからではありません。「ゴーストが囁いた」からです。
そう、この日は東京ゲームショウの「設営日」。 ついに株式会社kirinsanにも、仕事としてTGSに行く日がやってきたのです。
東京ゲームショウという場所
言わずとしれた数多くの伝説が生まれてきた場所です。90年代を生きたファンボーイの一人として、やはりゲーム業界最大の祭典というイメージが強いこの場所に、お仕事で来ているというのにちょっと感慨深いものを感じていました。
で、なぜここにウチがいたのか、というとですよ。
弊社はこの1年ほど、とあるエンタメ系ソフトウェアを某社さんと開発してました。
「えっ、マジでこれに関われるんですか?!」とハラダ個人としても飛び上がった仕事で、お陰様で現在も引き続き開発を続けており、非常に充実した日々を送っております。(感謝)
で、ついにTGSへ出展が決まりまして、その会場用デモビルドを作るとなった際に
「安西先生!!! 俺もTGS行きてぇっす!!!!」
と直訴したところ、「Why not?」(意訳です) と快諾をいただき、無事連れて行ってもらえることになった次第です。
自分たちが作ったものがまさに会場で動き、来場者に触ってもらえる。その光景をこの目で見られるわけですから、嬉しさ半分、スリル半分。事前設営とビジネスデイのトラブル対応要員(※)として、設営日から乗り込むことになりました。
※:デモ機になにかあったらカタパルトですっ飛んで死ぬ気でどうにかする簡単なお仕事
巨大な文化祭の前日
実は私、イベントの裏方経験がそこそこあります。 2007年頃、いわゆる「歌ってみた」第1世代のライブ活動に関わり始めたあたりから、同人即売会やポップアップショップ、各種イベントの現場で暗躍してきました。
そんな経験があるせいか、自分が単なる「一般客」として参加するイベントには、どこか小さな寂しさを感じてしまう癖があります。それが寂しさなのかは正確に言語化できていませんが、少なからず自分が関わっている領域であれば、なおさらその思いは強くなります。
だからこそ、設営から関わらせてもらえるのは本当に嬉しいことでした。
やる気が出ないわけがありません。
それが冒頭の電動工具。
誰にも頼まれていませんし、持っていくべきだった予備のUSBメモリーを忘れるという大ポカをやらかしたものの、ゴーストの囁きに従った結果、デモ用モニタのVESAマウント取り付けは秒速で完了しました。
かつての現場経験も無駄じゃなかったな、としみじみ噛み締めた瞬間。
皆さんも買いましょう、ハイコーキの36Vインパクト。便利ですよ。
イオンをさまようのも、設営のうち
巨大な郊外型イオンの家電量販店へ資材の買い足しに走ったり、車を出したおかげで混雑を回避できたり。設営後にはお取引先の皆さんと腰を据えて晩御飯を食べ、じっくり語り合う時間も持てました。
先方チームの皆さんは活動エリアがバラバラで、対面するのはこの日が初めてという方ばかり。画面越しに顔は知っていても、「今後どんなものを作っていきたいか」という仕事への熱量や、他愛のない雑談を交わせたことは、個人的にも大きな収穫でした。
進捗報告やビジネスとしての話以外に、普段何に関心を持っているのかなどをオープンに見せておく・知っておくのはなかなかに機会がなければできません。こういう所から面白い事が起こることが度々あるわけで、日常業務の中でそうそう得られる時間でもありません。
これこそがリアルイベント、ひいては「文化祭前夜」の醍醐味でしょう。
一般列に並ぶ意味
ビジネスデイ当日。 私はスタッフパスではなく一般パスでの入場だったため、TGS名物の長蛇の入場列もしっかり体感することになりました。
朝の幕張方面は例に漏れず大渋滞。都内某所から幕張まで約2時間、そこから入場列で約1時間半。

スタッフ導線と一般入場とでは見える景色がまったく異なります。 スタッフとして裏から入ると、来場者へのアピールが込められた順路をすべてスキップするわけで、ここを通るのもまた一興です。
大型メーカーのブースを横目に、専門学校や大学のブースを回り込み、配られているレッドブルを受け取って、メインステージの脇をすり抜ける。
ずいぶん並びはしましたが、この動線を自分の足で踏むことにはやはり大きな意味があります。 昔、知人のライブに遊びに行く際、関係者パスでスッと入るよりも、わざわざコスプレをして一般列に並ぶのが好きでした。この順路をたどることは、「訪れる人たちの目線をそのまま追体験する」ことなんですよね。
メインホールと、その周辺にある熱気

もちろん、大手メーカーの華やかなブースを見渡せば心が躍ります。 私もご多分に漏れずはしゃぎ倒し、会場をぐるりと巡りました。
『クレイジータクシーワールドツアー』を30分ほど並んで試遊。実はクローズドテストにも参加していたゲームですが、オフラインモードのプレイはこれが初めて。発売が楽しみですね….
この調子で『ジェットセットラジオ』も『バーニングレンジャー』も、ついでに『サクラ大戦』も待ってますよ、セガさん……。
ただ、私の性分として、巨大ブース以上に惹かれてしまうのが、ミドルウェアや周辺機器、小規模ブースが密集するエリアです。 これはモビリティショーの時も同じでした。完成車メーカーの絢爛な展示も素晴らしいのですが、部品メーカーのブースには「実際にそれを開発した張本人」がふらっと立っていたりします。そういう人を捕まえて話を聞くのが、たまらなくおもろいわけです。

完成品そのもの以上に、「それがどう作られているのか」というバックストーリーに触れたいのだと思います。
TGSでも国内外を問わず、気になったブースに飛び込んでは名刺を交換してきました。小規模ブースには海外勢も多く、日本語がほとんど通じない場面もあります。英検99級レベルの拙い英語で質問をぶつけ、「おいおいそれは大丈夫なのか」と苦笑いしてしまうようなアジア発の尖ったガジェットに目を丸くする。
単に展示を見るだけでなく、「これ、なんですのん?」と直接聞ける。私が展示会という場を愛してやまない理由は、まさにここにあります。
「ついにここに来ましたよ」
いろいろな刺激を受けた2日間でしたが、一番胸に迫ったのは、やはり自分たちがお手伝いしたプロダクトにお客さんが触れ、そのフィードバックを聞いた時でした。
ライブや同人誌即売会もそうですが、「ブースの内側(作り手側)」から見る景色は、やはり特別で感慨深いものです。ものを作る人間として、これ以上の喜びはありません。

「ついにここに来ましたよ」
お取引先様から出たその言葉と、私もまったく同じことを考えていました。 ただの観客から、仕事の話をしに来る側へ。そして今回はほんの少しだけ、「この場所を作り上げる側」へ。 このシンプルな言葉の持つ意味は、とても深いものです。
「もっとすげえの作るんで、来年も是非!」
そんな約束を交わしながら、いつかは自分たちの看板を掲げてここに立てたらどれほど痛快だろう、と想像しました。 いつか私も、もの好きの誰かから「これなんですのん?」と尋ねられる日を夢見て。
というわけで、5日開催(ラスト1日中止でしたが)の会期、本当にお疲れ様でした!





